ジミ俗研究室

世間知らずのくせに思考を好んでいる情報弱者のブログです。「俗」な物事について気になったことを気になった順に書き記します。

R-1の会場に紛れ込んだ稀代のメロディメイカー、こがけん

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 観客の反応問題 

違和感を感じた視聴者も多かったのではないだろうか。観客の歓声について、僕は少なくともこれはいかがなものかと些か疑問を抱いている。

 

「観客がどんな反応するかは観客の自由だし、それが笑いではなかったのは芸人の力量の問題ではないのか」という議論もあるとは思う。しかし劇場で観劇のマナーがあるように、笑レースで笑い以外の声が上がるというのは、ネタや芸人の評価に大きく(主にマイナス面で)影響を及ぼすためこれも本来は憚られるものであるはずなのだ。

もちろん、この現象が全て観客の責任であるというのも暴論である。ライブはナマ物とよく言われるし、存分に場の空気に飲まれて感情を出すための物でもあるわけだから。
ただそういった意味では、ライブを作る運営側がいくらでも観客の反応を操作できるということでもある。バラエティ番組ではよく収録が始まる前にスタッフや芸人が観客の盛り上がりを引き出すために、観覧ゲストに拍手や歓声の練習をさせる時間がある。
一般に前説と呼ばれるこの時間、特に生放送では重要になってくる筈なのだが、ここで「『ひえー』とか『ええー』とかはやめときましょうね」と少し強調するだけで、昨日の順位は「面白かった順」になったのではないか。

あくまでもたらればの話にはなってしまうが、個人的にはやはりあの雰囲気に飲まれさえしなければファイナリスト達は苦戦を強いられることはなかった。狂気をはらんだシュールなあのネタも、演技力が抜きんでた技巧に満ちたあのネタも。

 

そして、あの天才ロッカーも。

 

 

こがけんだけ芸の種類が違う

 

芸人(げいにん)とは、なんらかの技芸や芸能の道に通じている人、または身に備わった技芸や芸能をもって職業とする人のことを指す日本特有の概念である。  ―――フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 

ピン芸人ナンバーワンを決めるR-1ぐらんぷりでは、漫談やコント、リズム芸裸芸と、「面白ければOK」という言葉通りあらゆるタイプのネタが並ぶ。したがってM-1キングオブコントよりも比較による評価が難しい大会と言える。上記の芸人の定義を適用するならば、チョコプラ長田の横にガチの和泉元彌が出てきてもいいくらいの無法地帯なのである。

そんな環境の中でこがけんを除く他のファイナリストは「お笑い」で勝負していたのだから保守的な方かもしれない。

 

それに比べてこがけんは、たった一人でR-1の決勝に自らの音楽知識を引っ提げて常識を壊しに来たわけだから本当にアナーキーな「芸人」だ。そのあたりもロックの魂が滲み出ている。

 

素人がプロの芸人のネタのメカニズムを説明するのは野暮なことだというのは重々承知だが、まずはこがけんが披露したネタの仕組みを解説したい。

 

  • 歌が苦手な男が不思議なマイクに潜在的な歌の才能を引き出される
  • 「どのくらい歌が上手くなるのか」という期待を「裏切り」、なぜか日本の曲なのにありもしない英語詞と原曲と異なるメロディが出てくる
  • 普通の曲だけでなくNEWS ZEROのOP曲にも歌を乗せる才能がつく

 

「歌が上手くなるのかと思ってたら想像と違うクオリティだった」「思ったのと違うので困惑するがこれはこれで満足」、笑いを生む「裏切り」ポイントは大まかに分けてこの2点。逆にあまり他で大笑いするポイントはなかったと見受ける。(ネタを埋める他の小ネタが伝わりにくいのもあるそれにしてもマイクに腕が操られるマイムはもう少しどうにかならなかったのか)

 

以上から笑いとして特筆すべき点はない。ではどうしてこのような記事を書いているのか。その理由は彼の歌に乗せたメロディにある。

 

80年代の洋楽ハードロック

既存の、さらに言えばJ-POPど真ん中のトラックの上に洋楽ロックの主旋律を乗せているこの芸当、果たして笑いの土俵で量ってもいいものなのだろうか。特に崖の上のポニョに関しては洋楽愛がなければ不可能なコアな領域に達していると思う。

 

もともと童謡に近い歌として作曲されたこの曲は、老若男女が歌いやすいように基本は4拍子の拍に音がはまり、小節の頭から言葉が始まるようになっている。ポニョや童謡に限らず日本で大ヒットを飛ばした歌謡曲は往々にしてそういう要素が(主にサビに)現れる。

 

一方こがけんのネタのポニョはのっけから1拍目の裏拍から入る(C'mon, C'mon, C'mon...の部分)。これは一つの母音に複数の子音が付く英語詞特有の歌いまわしから生まれるリズムだ。原曲には存在し得なかったリズム感を違和感なく落とし込むその技は少し洋楽をかじった程度では成しえない才能である。しかもおそらくあの歌い方からして理論を学んだわけではなく感覚で作曲をしていると見受けられるので、よくバンドマン志望の若者に勘違いさせる「理論とか勉強したことないんですよね」系のミュージシャンと同じ類の能力だろう。

 

したがってこがけんという男は、映画への造詣の深さゆえに劇中歌や主題歌の洋楽に精通し、全ての趣味を芸の肥やしにしてきた、他のファイナリストとは種類の違えど本物の「芸人」だったのではないだろうか。

 

一番「芸人」だったのは

マツモトクラブさんです。演技力構成力共に頭一つ抜きん出てます。R-1がコント限定になれば彼の独壇場です。来年も応援してます。