明朝体の偉大さに人類は勝てない
動画投稿者としての2年間
ちょうど2年前にYouTubeにゲーム実況の動画を初投稿した。今日みたいに薄曇りでパッとしない天気のことだったと思う。「まったり実況」などと名のついた盛り上がりのない動画を作って多かれ少なかれ収益を得る投稿者で溢れるYouTuber界に一石を投じ、「面白い実況動画」を作るつもりで、友人を半ば強引に連れ込む形で飛び込んだ。
過去形を多用するこの文脈から察せられる通り、結果は散々だ。ちょうど2年経った2019年3月現在、チャンネル登録者は93人。収益を得るには1000人が最低ラインだというのにこの有様。桁が2つも足りない。単純計算であと20年は続けなければならない。
元来要領が悪く学生として優秀とはとても言えない僕は、学業の傍ら高頻度で動画を投稿するのは難しく、良くても週2回の投稿がやっとだった。僕がつまらない、盛り上がりがないと見下していた投稿者の方々は毎日投稿していた。そもそも追いつこうとすることすら烏滸がましい身分だったのかもしれない。
ならば質を高めようと思い、編集だけは力を入れようと独学でテロップなどの見せ方を練習した時期もあった。いや今も多少はそうである。YouTuberが使いがちなフォントは片っ端からダウンロードし、時間の許す限りシチュエーションに相応しいフォントを逐一比較し選択する日々を今でも送っている。
…と、ここまで自分があたかも編集に苦労しているような書き方をしたが、実はほとんど考えないで頼り切りなフォントがあるので最近は時間をかけていない。
だって、
僕にはもう明朝体がついてるから
今日綴りたいのは実況者の回顧録ではない、明朝体の魅力についてだ。
普段フォントを気にしない方々からすれば、ああ学校のジャージとかに刺繡されてるあれねとしか思えないかもしれないが、正直言って無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。マジビビるよ。
生息域について
配置されたシチュエーションによって数々の表情を見せる明朝体はもはや生き物だ。今日はその代表的な生息域とそれがバイオームに与える影響をいくつかご紹介していこう。
1.ヱヴァ
みんな大好きヱヴァのぶっとい明朝体。この種はヱヴァに隙あらば出てくるというだけでなく、それに憧れた多くの動画編集者がプロアマ問わずパロディをしている(イッテQなど)。黒字に白の明朝体を使うだけで何のパロディだかわかるからだ。編集上の行程も一番楽。縁取りもいらないし色に拘る必要もない。コスパ最強でパロディ笑いを引き出せる。よほどの強い信念がなければこの明朝体は一度は使ってしまうだろう。
ちなみにこれ、有料フォントなのだ。以前調べた時は万は下らなかったのだが最近は公式で4600円+税で購入可能とのこと。ヱヴァ明朝の繁殖に、皆さんも一役買ってみてはいかがだろうか。
2.ちょっと前の邦ロックバンドのMV
※曲名です
この明朝体は2010年代前半に流行ったダンサブルロックや残響系、広く言えばインディーロックのバンドのMVに棲みつき、バンド名や曲名を画面いっぱいに映し出すことで主にひねくれた若者の脳内にインパクトを残すという形で生き残っている。
ただしこの勢いは現在は若干下火になっている。便利なのでみんな使いすぎてもはやダサくなってしまったのだ。カテゴライズされることを恐れ一般から離れた音楽性を好んでせっかくグレた音楽やってるというのに無意識に画一化された演出に収束していたとなれば格好もつかない。それにいち早く気づいたのか映像作家の加藤マニ氏はちょうどこの明朝体ブームのころからゴシック体を多用し、一応それが現在ではヤバTをはじめあらゆるアーティストのMVで見られるようになった。
したがって1人の映像作家が持ち込んだ外来種によって、明朝体の生息域が脅かされていると言えるだろう。地域的な絶滅危惧Ⅰ類だ。
いや、ゴシックは外来種だよだってカタカナだし。明朝体漢字でしょ?だから国産だよね?
生息数が減ったという話題に戻すと、増えすぎたことによって自浄作用が働いたとも解釈できる。そもそも個性を主張するためのフォントがあの便利な明朝体とあれば人類はその養殖に躍起になるわけだが、局所的に個体を増やせば自家中毒を起こして次第に枯れていくのはセイタカアワダチソウの例を見る限り不自然なことではない。いやいいんだよそれ外来種じゃんとかいうツッコミは。要らない要らない。そういう寒いこと言う奴は吐溜めフォント使ってさほど面白みのないフレーズを不必要にインパクトつけてサムネにしてろ。
3.漫画
(バキ道より)
こちらは原始の明朝体だ。そもそも明朝体は、縦線が太く横線が細いという振り切ったデザインからシリアスなシーンを強調するために使用される。一方コミカルなシーンで台詞でも発した本人は至って真面目であることを表現して客観的に笑いを演出するという効果も持ち合わせている。おそらく時系列的には前者から後者が派生したものと推察される。古典の授業で習う「なのめなり」のようなものだ。元の意味が普遍的になりすぎて皮肉として逆の意味で用いられたものがこれも普遍となるパターンが明朝体で起きている。全てこれも明朝体の便利さ故である。
これからもこの原始的な種は毎週もしくは毎月、再生紙の上でフォントの原理を雄弁に物語り続けるだろう。
おわかりいただけただろうか
この便利さ故の偉大さを。何につけても合うというこのフレキシビリティ。検索すればわかるが太字細字含め明朝体には今なお多数の種が現存しておりそのカンブリア爆発は留まるところを知らない。人類はいずれ明朝体にひれ伏すのだ。その時を預言するものとして、今日はここまでにしておこう。
それでは。
謎の効果音「デュクシ」はどこから来たのか、どこへ行くのか
スマブラ廃人
発売日に買ってからというもの、オンラインで勝てないのが悔しくてProコンを濡らす日々が続いている(主に手汗で)。リヒター使いの僕は体術を用いる格闘系のファイターにはリーチの点でめっぽう強いはずなのに、リュウとかに負けるので本当に腹が立つ。
休日のほとんどをSwitchに費やす僕くらいの廃人になると攻撃を当てられたSEにすら過敏になってしまう。最近はリュウとケン専用の原作重視SEに腹が立つ。衝撃が人体に効く感じのちょっと重い音。
過敏になりすぎてこれを思い出した。(動画0:10~のやつ)
っていうかこれあるあるだったんだ。友達だけかと思ってた。
そもそもなんなんだデュクシって。何由来の音なんだ。気になってしょうがないので、子どものときにだけあなたに訪れる不思議な出会い、デュクシについて考えた。
まずデュクシするやつの気持ちがわからない
僕はデュクシされる側の子どもだったので、デュクシ自体に良いイメージがなかった。楽しそうに人を突くな。痛いんだよ。だから当時彼らのことを理解しようともしなかった。
しかし時が経って客観的に見てみると興味深い。効果音が出るほど強く殴れない小学生男子が声を出してまで演出したい暴力シーン、よほどの憧れを以てコピーしたい元ネタがあるに違いない。子どもの真似は学びの始まり、これはバカにしないで研究しよう。
まず、デュクシの源流を見つけるためにいくつかジャンルの当たりをつけてみた。
- 男子がこぞって集まり対戦する格闘ゲーム説
- バトル漫画が原作のアニメ説
- 激しいツッコミ全盛期の頃のバラエティ番組説
この中から近い効果音をリサーチし、最も近いものをデュクシの源流とする。
「デュクシ」で検索してみた
たかが擬音にヒットするページなんてあると思えないが、一応この4文字を入力してみた。…デ ュ ク シと。
すると1番上にヒットしたのが、
あっ
ウキウキで調べ物をしようとするバカな男をよそに、もう世間では答えが出ていた。
1988年よりフジテレビ系で放映を開始したお笑いコンビ『とんねるず』の冠テレビ番組『とんねるずのみなさんのおかげです』で木梨憲武が良く口にしていた事で一般に普及した。
(中略)
『ストリートファイターⅡ』をデュクシ一般化の発祥とする説も有る。
つまりデュクシの生産元はストⅡで流通が木梨氏だったというわけか。どうやらスマブラをしていた時の連想は強ち間違いではなかったらしい。
『とんねるずのみなさん』が1988年からでストⅡが1991年発売と。
…これさ、
古すぎないか
確かにデュクシの汎用性やスタイリッシュさは偉大だ。しかし、平成も終わるというのに僕らはいまだにこんな古代のSEに憧れていたのか。現代の子ども達はわかりもしない効果音を口にし、あろうことかあるあるとして定着している。知りもしないSEを口ずさみ、知りもしないSEを次の世代に受け継ぐ。
インターネット文化が発達して久しいこの世界、文化の流動はこれからも加速していくというのに僕らは子ども達に30年前のトレンドを強要し、自由であるべきSE教育の現場は凝り固まっていくばかりである。もうそんなのはやめよう。僕らは立ち上がるべきだ。
さもなくばこのままでは日本は遺物に縋り続けるSE後進国になってしまう。
これからのデュクシの話をしよう
今の日本を憂う言説は山ほどあるが、僕らはせめて建設的であろう。これからの日本の子ども達はどんなSEを発音すべきなのか。デュクシの伝統を残すべきだろうか。
デュクシ原理主義者の方からの批判があることは承知で主張するが、答えは否だ。
もっと現代的で、来る新しい元号の時代に相応しいデュクシを創ることこそが日本をSE先進国たらしめる第一歩になると僕は信じている。
それでは流行のアクションゲームを参考に、いくつかの代替案を考えていこう。
1.トゥギュシィ
せっかくスマブラ廃人なので、まずはこちらから。該当するのは0:47~の部分、メテオスマッシュのSEだ。今や子どもだけのものではないスマブラ、それを代表する「気持ちいい」音のメテオなら広い世代、そしてワールドワイドな活躍が期待される。しかしデュクシと若干似てるのでどう差別化を図るかは今後の課題になってくる。
2.ブガァプヒューゥ
最新の格ゲーから、世界的な知名度も加味してJUMP FORCEもセレクト。該当のSEは0:34~。
いまいちキャッチーさには欠けるが、吹っ飛んでいく音をプラスして爽快感に酔いしれるのはいかがだろうか。もしくはヒューゥを前に持っていくことで打撃に勢いがついていることを演出できる倒置法でも悪くはないだろう。
3.コァウシ、クアウシ、コオォォォァ
(該当シーンは0:56~)
もういっそバトルゲームに拘ること自体旧人類の発想なのかもしれない。
先進性という面では断トツにおすすめできる。ただ一つ難点なのはこれがどちらかというとやられボイスだということか。それが気になる場合弓矢の「カッ、ビィーン」でも代替可能だが、今度は打撃ではないという問題が発生する。どちらを選ぶかはデュクシ使いでも判断が分かれるところではある。
以上、僕の少ないゲーム知識で思いつきうる代替案である。
さっきから何言ってんだこいつ
そう思わなかった方、あなたは立派なデュクシストです。これからもデュクシと日本のSE文化の未来のために共にしのぎを削りましょう。デュクシストの皆さんが胸を張ってSEを口ずさむ日々が来ることを願っております。
それでは。