ジミ俗研究室

世間知らずのくせに思考を好んでいる情報弱者のブログです。「俗」な物事について気になったことを気になった順に書き記します。

R-1ぐらんぷりがM-1などに比べて笑いが少ない理由が気になる方へ

2019年のM-1最高だったよな

 

本当に全組面白くて時には涙を流して笑った。新しい笑いを観られたし、しかしその中にも先人から受け継がれし笑いの基礎的なエッセンスも感じるから安心して見られるというのもあのM-1が最高だったことの一因だろう。しかし昨日のR-1、というかここ数年のR-1からスターは生まれず、レベルが低いという声も少なからずある。それはなぜなのか。

 

このページを開き以下に続く文章を読んだ人が、なるべく、極力傷つかないようにまず予防線を張る。大きく分けて2本、予防線を張る。

僕はただ子どもの頃から今まで好んでテレビ番組、とりわけお笑いを見ている(見せてもらっているという表現の方が正しいかもしれない)というだけの何者でもない一般人だ。したがって、いくらでも「お前何様だよ」「自称お笑い評論家乙」と見下し叩いて良い階層の人間だと思ってもらった方が幾分か気楽に読めるかと思う。

次に、この記事は決して「芸人のレベルが落ちた」「この芸人が評価されない理由がわからない」などの悲観的、消極的な主張を目的とするものではない。主題は、決勝に進出した全芸人のネタを精読し、どこが面白いのか、もしくは面白くないのかを分析することで、近年のR-1決勝出場芸人の傾向や他大会(M-1やKOC)に比べ盛り上がりに欠けるように見える理由を素人なりに考えること、そしてそれを言語化することで一つの論理として個人的に整理をつけることにある。

近年のR-1を観てモヤモヤした感情を抱いているような方が僕以外にもいるのなら、この記事で一つの解釈を得て頂けると幸いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

分析方法・「面白い」の基準

まず決勝出場芸人たちを客観的に分析するため、簡単に思考のフォーマットを決めておく。

 

①その芸人がどのような仕掛けを以て笑いを作ろうとしているのか、その狙いを読み取る

②その狙いが反映されたネタや実際のパフォーマンスが見る側にどう作用するかをなるべく論理的に精査する

③「その仕掛けで笑いを取りたいならこちらの方が面白くなるのではないか?」などという不躾な提案が浮かんだ場合、恥を忍んで記す。

 

主にこの3点で各芸人についてまとめる。

 

続いて、「面白い」の基準について。

これは人によって見える世界が違うのは当たり前なわけで、あくまで個人的な基準になる。ただ、一般に広く知られる「笑いは裏切り」という言葉を前提に、「見る側の想像を超え、意表を突ける発想」を「面白い」と呼び、「見たことあるような設定、ボケが想定の範囲内」といった状態を「面白くない」と呼ぶものとする。

 

 

 

 

全芸人の分析

12人それぞれについて精査するため冗長な文章になってしまい申し訳ない。お忙しい方は気になる芸人の項目だけ見るのをお勧めする。

 

1.メルヘン須長

沢口靖子のモノマネで一部のネタ番組などに出演していることで有名だが、ちびまる子ちゃんなどのアニメキャラのクオリティも高い優秀なモノマネ芸人。

披露したネタは「科捜研の女」の主人公を演じるイメージの強い沢口靖子に扮し、「Twitterあるある」のような(主に女性の)やりとりを事件例のごとく紹介しそれらをディスるというもの。

お笑いにおいても多様性を受け入れる文化が称賛される現代でディスりを中心に置いたネタというのは非常にやりにくいようにも思われる。しかしディスが全面的に受け入れられない世の中ではないと個人的には考える。そこに説得力さえあれば。例えば、2019年M-1チャンピオンのミルクボーイ。ネタの大半が「適切な」ディスりで構成されている。コーンフレークの成分表示の五角形についての言及は、説得力を帯びた適切な指摘でしかない。

そもそもお笑いにおける面白いディスはボケや世間の矛盾に対する適切な指摘として存在するからそこに説得力が生まれて安心して笑えるというもの。情報化が進んだ現代でディスがしにくいのは、ディスる側にそれなりの知識がないと粗が見えやすくなったという解釈が妥当だろう。

 

それを踏まえてみると、メルヘン須長のネタはどうだろうか。若い女の子のアイコンの3割はおっさんという論調は確かに少し前までは多かったが今は普遍的になりすぎてネカマの見分け方すら一般的になりつつあるわけで、今更ネカマの話をしても「裏切り」に発展しないのである。あと声優とそこにリプするファンの関係をディスるのも、アイドル声優の大小さまざまな市場を見るに、共感できない声が多く上がってしまうのも仕方ないといった感じだ。その辺りに彼女の見解の説得力のなさが露呈してしまい、大衆的な笑いに至りにくいという結果となる。そしてオチの質問箱について。そのネタがわかるのは今Twitterやってる人の一部だし審査員の年齢層を考えると伝わらない層の方が多いのではないかという点も気になる。

 

ついでに、これは身も蓋もないことではあるのだが、そもそもこのフリップ芸に沢口靖子のキャラ要る?モノマネで売りたいならそのキャラ掘り下げた方がよくない?

 

 

2.守谷日和

披露したネタの設定は、ある事件の重要参考人として呼ばれた男が自身のアリバイを証明するために事件当日の状況説明をするのだがなぜかそれが落語のような振る舞いになってしまうというもの。

取り調べから落語へ。まさしく緊張からの緩和を体現すべく作られたネタと思われる。

ネタの後半は取り調べ担当の刑事がその落語を面白がって本題そっちのけでどんどん落語に寄せさせるので、男は困惑し泣きそうになるという展開。ここに畳みかける笑いを作ろうという意図が見える。

落語を題材にしたオチも用意されているので綺麗なコントだなあと素直に尊敬した一方で、もしかしたら演技によってはもっと面白くなるのではないかとも感じた。

例えばネタの始まり。急に落語家になるのならば、最初に追及されているときの素の状態はもう少しテンションを下げて生っぽい演技にしておいた方が落差が大きくてより面白くなったのではないか。刑事に対するツッコミも「なんで○○なんすか!」ばかりでバリエーションが少なく、回を重ねるごとに言い回しを変えた方がネタを聞き取りやすいし受けてを揺さぶりやすいと感じる。「なんで明日は重要亭参考人て名乗らなアカンのですか」→「いや誰が重要亭参考人や」、「なんで着物着てこなアカンねん」→「もう着物とかええからええから(刑事がノリノリで持ってきている様を少しまんざらでもなく拒否しながら)」といった感じで少しずつ自分の特技を評価され上機嫌になったところで逮捕されてしまうオチの方が個人的に好み。これは芸人の演技力問題なのでこれ以上の議論には発展しないかもしれないが。

 

3.SAKURAI

SMA所属でギター弾いて歌ってたらもうそれはミュージシャンなのでは・・・?リズムギターの音楽に乗せながら、名詞をいくつか挙げて「一体何の共通点があって羅列してるんだ?」とリスナー見る側に思わせて、満を持して発表するそのカテゴリがしょうもなくて笑いを誘うという仕組みに見える。

つまりいかに受け手の予想を裏切れるかに挑戦しているわけだが、発表された正解がそんなに裏切りきれてないのが敗因なのだと分析する。例えば、「徳川の将軍15代の肖像画の顔の向き」は発表が長すぎて言い終わる前に気付いてしまう人もいるため笑うタイミングが分散してしまう可能性があるし、「米米CLUBの主要メンバー」は最後に石井を言ってしまうせいで正解発表前にこれも気づいてしまう可能性がある。

だったらもっとわかりやすい固有名詞を並べて、正解発表は「知らんわそんなん!」って観客に心の中でツッコませるくらいの方が裏切りやすかったのではないか。

松本大野二宮櫻井相葉と並べて「生身で月面に放ったら♪危ない~♪」とかでもよかったのではないか。あと最後の大サビ大ボケの前にしっとりさせるとかもう1段階発展したメロディ用意しとくとか、歌としてのギミックがあると聴きやすく感じる。

 

 

4.マヂカルラブリー 野田クリスタル

今回の優勝者。彼が今大会で一番面白いかどうか、それは前述の通り人によりけりなところであるので、あくまでどういった笑いのメカニズムなのかを純粋に分析したい。

 

自作したゲームを実際にプレイしながら、そのシュールな絵面や難易度に四苦八苦する様を演じることで笑いを誘うところを見るに、なんだかこれってゲーム実況者のそれなのではないかと思ってしまった。ジャンプで弾幕を避けきったときとかは一時会場全体が「行け!行け!」みたいな雰囲気になってみんなで生ゲーム実況を楽しんだかのような感じだった。

だからこれはもう、「人が変なゲームやってリアクションを取る様(=ゲーム実況)は十分面白くてお笑いに値する」ということを優勝をもって証明した例なんじゃないかと。これから実況始めたいって方、アイワナとかスペランカーとかやったら売れるチャンスじゃん。今だ急げ!

 あとこれはTwitterで見かけた意見だったのだが、自作したものをモニターに映してそれを自分でツッコんでいくという形態を「陣内スタイル」と呼び、野田クリスタルもそのジャンルではないかと言われている。つまり野田のネタは陣内智則が既に開拓しきった土壌で勝負していた、というようにも見えてしまう。ただこの件に関してシステムを丸っきりパクっていると評価するのはあまり正しくない。なぜなら、見る側に「これは自作したゲームだ」という事実を前提として知らせておくことで差別化はできているからだ。映像自体にライブ感、不安定さを取り入れ観客を緊張させる仕組みはある種先進的なシステムであり、我々視聴者に新しい体験をさせてもらえたのではないだろうか。物凄く面白いという感想に直結するかは別として。

 

 

5.ルシファー吉岡

設定はとある仕事場の休憩室。若い女性同僚の飲みかけの缶コーヒーの横に、全く同じ銘柄の缶コーヒーをこれまた飲みかけで(わざと?)放置してしまい、取り違えて飲んでしまえば間接キスになるがそれでいいのか悩むという、冴えない中年男性の拗らせた葛藤がテーマのコント。

男性視点から見ると少し共感できてしまう感情を、行き過ぎた自虐で表現するという手法で構成されているように見受けられるのだが、この辺の繊細な感情は、もう少し演技力がないと表現しきれないという一面を持つ。過去の決勝進出時の彼のネタにも共通していることだが、あまり表情筋が強い方ではなく特に目元の演技のバリエーションに乏しい点が彼のコントの完成度を邪魔している感がどうしても否めないのだ。動きももっと激しくコミカルな方が現実感から少しずつ乖離していってより笑いになるし、リアル感に終始すると展開が広がりにくいからもっと心の中の鬱屈とした部分を大げさに表現するくらいが丁度いいはず。

すなわち、これは演者によってかなりウケ具合が変わるコントなのだ。一回佐藤二朗に本気でやってもらいたい。

 

 

6.ななまがり森下

今大会の「ぶっ壊し枠」と捉えて差し支えないと思う。仮にもひとり芸の日本一を決める大会の決勝戦で裸芸を披露するというバカバカしさがウケるというのはザコシショウやアキラ100%の前例があるが、今回もその類の笑いが起きていたように思う。

彼らの名誉のためにも言うが、前例の彼らはただ裸だったからウケたわけではない、そのネタの中にも少なくとも裏切りや緊張と緩和を織り交ぜていた。しかしどうだろう今年は。緊張と緩和に値するシーンがイライラ棒の所しかないのだ。しかもできてないから緊張のレベルはかなり低めに設定されてしまって結果緩和への落差も小さい。

なにより、コント名以上の情報がないので見る側の興味が発展しないのだ。平たく言えば飽きてしまうし無観客の会場の空気の方が気になってしまう。「今18分くらいやってなかった?あいつ」などの陣内智則の指摘が至極全うすぎてようやく救われた感がある。審査員が審査の前に私見を語るなんて本来よっぽどのことなのだが、テレビ番組を成立させるための緊急措置を素早く取った芸歴27年の彼の手腕が光ってしまったといったところだろうか。

 

 

7.パーパー ほしのディスコ

相方のあいなぷぅの悪名高きパーパーのお笑い担当。泣いているのを我慢し続けているような声色と演技が特徴でもありまた武器でもある。

冷蔵庫のプリンを勝手に食べられた男が同棲中の彼女にやんわりと自白を要求するのだが、その優しい言い回しのせいで先に浮気を自白されてしまい雰囲気が気まずくなるというコント。実はこのコントも今説明した以上のことがほとんど起こらず見る側の興味が発展しないタイプのネタなのだ。あばれる君みたく鬼束ちひろでも流せばもう少し雰囲気にのめりこませることもできただろうに。

彼の笑いの狙いとしては、「不慮の事故です」「無罪です」などの特殊な言い回しで見る側の想像を超えるシステムを採用していると思えるのだが、残念ながらネタに登場した面白げな台詞がすべて日常的に出てきてもおかしくない比喩表現で、人の想像をさほど裏切れない言葉なのが難しかった。せっかく言葉少なく一語一語の笑いの比重が大きいのだからもっと見る側がすぐには予想できない例えツッコミのようなものがあってほしいと願うのは贅沢だろうか。 

 

 

 

これでネタを成立させてしまうなら普段のあいなぷぅの役割マジでないじゃん

 

 8.すゑひろがりず 南條

M-1で見たとき衝撃的だったし本当に面白かったし古語で実況するバイオハザードやフリートークでの頭の回転も速い、個人的な推し。発声や鼓の打ち方が美しいのもあって努力の成果が適切に表れているのも尊敬できる。

ネタは「今昔またぎ」。M-1のネタにもあった「古今東西お菓子の銘柄」の拡張版ともいえ、現代語のシチュエーションや歌詞を古語に変換するというもの。2本目のネタも同様、現代語とのギャップで笑いを誘う仕組みだ。

流れとしては、第一のまたぎ第二のまたぎと思いついた古語変換を羅列するように順次紹介していくといった感じなのだが、そのシステムで一本のネタを構築するなら、「またぎ」同士の相互作用で後半に盛り上がりがないとマズかったのではないか。あのままだとどこでネタが終わっても同じだし終盤になるにつれて新鮮味が薄れてしまう。

例えば、布袋ネタで「上様の物にございまする」をやった次に「うわーんジャイアン僕のマンガ返してよ(またいで)上様の物にございまする」や「アンパンマンは♪(またいで)上様でございまする」といったようにかぶせるなどの仕掛けを用意すれば見る側の「次どうなるんだ?」という興味が持続しやすい。あとドレミの歌の後半は、もしかしたら無観客のあおりを今大会で一番受けたシーンだったかもしれない。自分が彼を無意識に贔屓しているだけだろうが、あれは可哀想だった。

 

 

9.ヒューマン中村

かつてR-1に出ていたときのフリップ芸を廃止し、録音した音声との掛け合いで笑いを生むスタイルのコントを採用した。もしかしたらこちらの方が純粋な「陣内スタイル」に近いかもしれない。異世界の王国の妖精が脳内に直接話しかけてくるというファンタジーさと、受信料を払わされたり嫌がらせが陰湿だったりという現実でもかなりシビアなシチュエーションを掛け合わせることでギャップを作る。受信料の下りがNHKをディスってるようにも聞こえるから審査員の点が入らなかったのではないかという意見も見かけるが、個人的にはそういった忖度や陰謀論に終始したくないのであくまで芸としての分析をする。

これはルシファー吉岡の項目でも書いたが、彼もまた表情筋の乏しさゆえに損をしているタイプだと自分は感じている。それに加え彼の場合は声の演技、つまり言い回しや抑揚に関しても「一般人感」が強すぎるのも難点なのだ。しかしあの理系大学院生修士2年みたいな声質はもうなかなか変えようもないので、妖精のボケに対して小さく2度見する、「やめろや」の最初の「や」の発音を「ぃゃや」にして声を震わせるみたいな細かい演技で本当にボケに困惑する様を表現するギミックが欲しいと思ってしまう。フリップ芸も発想が本当に面白いからこそ、そこで損をするのが気の毒でしかたないのだ。来年もネタが見たい。

 

 

 

 

 

 10.おいでやす小田

全ての芸人の意図をくんで「ああここで笑わせたいんだな」と理解するという趣旨でこの記事を書いているはずなのだが、正直…彼を好意的に捉えるには自分個人としてはもう少し時間が必要だ。もちろん披露したネタを分析したうえでこういった感想を抱いている。

ネタの設定は、借金の取り立てのレクチャーとして新人の取り立て屋に効果的な脅しを指導するが、それが「ラ行は全部過剰に舌を巻いて発音すればいい」といった内容でフリップを用いて用例を紹介していく、というもの。

もう、これ以上の言葉を使って説明するのは無理ではないかというくらい、ネタの内容はそれだけでしかなくそれ以上の発展もない。強いて言うなら「コラ!」「オラ!」の「ラ」だけに注目させて、「殺したろかコラ」の2か所の「ろ」を後で指摘することで裏切りを発生させる狙いなのだろうか。次のQ&Aの下りは…いくら後に実践編を置くとしても借金関係ないしなあ…初老の老人を車で送ることが趣味って何なん…ラ行を巻くことに重きを置きすぎて設定のコンセプトがどこにあるのかわからなくなっているのが見る側としては不安要素となってモヤモヤする。もし「いや全然関係なくなっとるやないか」というツッコミを観客に要求するならそういった感想を抱かせるために一つ二つフォローを自分で入れてほしかった。「ほらな?めっちゃ日常生活でも便利やろ」「初めて会うた人にはボーリングが趣味かどうかしか気にならへんもんな」みたいな台詞で見る側のツッコミを入れられる余白を作るくらいアリなのではないか。

というか全部実践編でよかったし、そしたら別の行とかを使って別ルールを途中で追加すれば飽きない仕組みにできたはずなのだ。どうしてもラ行だけじゃ相手がビビらなくて困った時はハ行を裏声ビブラートで発音しろみたいな下りにすれば、世界のナベアツが途中から5の倍数で犬になるや8の倍数で気持ちよくなるを追加したときの如き変化が生まれる。ハ行とラ行が同時に出てくる言葉なんて出そうものなら裏声とドス声の清濁混ざったギャップで忙しなく発音する様がバカバカしく映るし、疲れる素振りを見せればまた別角度の笑いにもなる。見る側はいくつかの笑いを求める時代なのだ。台湾まぜそばで終盤に追い飯が欲しくなるようなものだ。

彼が結果を残せないのは嫌われているからではない。そういった趣向を凝らそうという姿勢がネタに表れていないからなのだ。正直この主張すらわかりきったことでもあるのに審査結果を見て嫌われる嫌われないの話でキレ芸を披露するのも彼の問題の一つで、説得力のないキレ芸は難癖でしかないので本当に嫌われちゃう前によしたらいいのに…と思う。個人的には。個人的にはだからね。ちゃんとキレ芸が笑いになる瞬間とか分析してほしいなあ…再三言うが、ツッコミとは基本的に適切な指摘でないといけない今の時代かなり知性が求められるものなのだから。

 

 

11.ワタリ119

有吉ゼミ、向上委員会などの一部番組にほぼ毎週出演している元消防士のピン芸人…ではなく、キラキラ関係という男女コンビの片割れ。恥ずかしながら本格的にネタを拝見するのは初めてだったのだが、バラエティで見知っていた芸風はそのままにネタの構造で他芸人に比べクレバーなことをしていたので、自分が抱いていた、トークで目が泳ぎまくって緊張を隠せない芸のない奴、というかなり失礼な印象を払拭してくれて驚いた、というのが正直な感想。

制限時間180秒で119枚のフリップを披露するため時間がないことをアピールしておきながら、そんなに要らない理由説明や地元の隊長を思い浮かべる下りなどでハラハラさせながらネタ数の多い高速フリップ芸を披露するという半ば遊園地のようなエンターテインメント性をはらんでいた。しかも時間を余らせたから子犬の鳴きまねをオチにするという破天荒さも裏切りになっていたし、サンシャイン池崎ら他のハイテンション芸人とも芸風で差別化ができている。確かに時間ぴったりで終わらせたらさらに拍手喝采だったかとは思うが、本人が培ってきたタレントとしての印象も相まって今大会の中では良いネタを披露できた側の芸人に入るのではないだろうか。

 

 

12.大谷健太

どこかで見たことある顔だなあ…前何かに出てたっけか…絶対知ってるんだよなあ…とモヤモヤして名前で検索したが、同名の弁護士とボートレーサーが出てきたし、おそらく本人のWiki見ても元のコンビ名すら存じ上げなかった。でも絶対見たことあるんだよなあ…昔近所に住んでたりしたのかなあ…

絵にするとシュールな印象を与える早口言葉をフリップのイラストとともに順次羅列していくのだが、今大会では珍しく前の小ボケにかぶせてさらに後半に畳みかける手法をとったネタで、そういった点ではすゑひろがりず南條とは対照的といえる。実際決勝でも大谷の方が視聴者のウケはよかったようだ。

1つ言い終わった後になんともいえない表情をして前を見つめるのも芸風だと思うが、これは幾分かカメラワークに助けられているかもしれない。やはり真顔に少しずつズームしていくカメラワークは重要な笑いのリソースになりうる。視聴者投票に重きを置く大会で、そういった印象の恣意的な操作ができうるというのは、番組側はかなり気を付けているとは思うのだが…

 

 

 

 

以上、全芸人の分析である。お笑いについて真面目に考えているこの記事の書き手が必ずしもおもろいことが書けるわけではないことがおわかりいただけただろうか。

 

総合的なまとめ:畳みかけについて

今大会全体的に言えることなのだが、後半に畳みかけて笑いの盛り上がりをつくるという王道の手法をとる芸人がかなり少なかった印象だ。M-1ではほとんど皆畳みかけていたし、笑いの価値観やトレンド自体が急に変わったわけではないはずなので、敢えて畳みかけなかったわけでもなさそうだ。そして、ピンだと畳みかけができないわけでもない。

口を酸っぱくして言うようだが、面白いの基準はそれぞれだ。つまり、誰を面白いと思ってもいいし誰を面白くないと思っていいわけだ。しかし先人らが少しずつ解明してきた「面白い」のメカニズムに照らし合わせると、ネタ作りあるいは稽古という準備段階で「面白い」に近づける作業に費やせる時間はあったのではないか。そう考えると今回決勝進出した芸人の粗がどうしても見えてしまうし、粗のあるまま決勝に出ることができて、粗のあるまま多くのスタッフや局員が一生懸命作った番組でネタを披露できてしまうことになるのは、R-1のレベル、ひいてはR-1という真剣であるはずの賞レース自体への信頼を下げかねない。現に審査員が審査前に評価を口にしてしまうという緩い空気のまま番組は進行しているし、M-1の審査員ほど突っ込んだ評価をするコメントもない。

R-1で優勝すれば人生が変わる。それくらいのネームバリューがなければ芸人がその頂を目指す動機付けも薄れるし、それによって目指す芸人が減れば良い芸人を発掘する機会も減り、大会の存在意義も小さくなってしまうという負のスパイラルに陥ってしまう(実際去年よりエントリーは少ない)。

 

芸として何が面白いのか、そういったベーシックな目線で芸を洗練させようという姿勢がプレイヤーにも審査員にもなければ、今後のR-1は規模縮小、もしくは廃止を余儀なくされるだろう。そうなれば、全国ネットの賞レースを失ったピン芸人たちはどう日の目を見ればいいのかわからず実力があっても路頭に迷うこともあるだろう。お笑いを愛す一般人として、その未来が来ないことを願う。

 

 

 

 

 

イッテQ録画し損ねてナイーブ

 

最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。また何か言語化したくなるような個人的にモヤモヤしたトピックがあれば、またどこかでお会いしましょう。